秋も深まりつつある十月十六日、伊勢神宮で最も大切な祭祀である『神嘗祭』が行われた為、ご縁あって見学
 並びに奉拝してまいりました。
 神嘗祭は初穂を神々に奉げ新穀の恵みに感謝するもので、『神宮の正月は神嘗祭』と言われるほど重要な神
 事です。昔は神嘗祭の次に、新嘗祭において天皇が新穀をお召し上がりになるまで、新米を食べることは控え
 られていたそうで、自然の恵みを敬い礼節を重んじる日本人の奥ゆかしさに感じ入ります。
 この重要な神事は夜遅くに行われるため、はやる心を抑えて昼間はいくつかの神社をお参りしました。

 一日目、新幹線で東京を発ち、名古屋駅で車に乗り換えて最初の目的地『瀧原宮』へ。
 瀧原宮は元伊勢の内に含まれ、倭姫命が現在の『皇大神宮(内宮)』へ辿りつく以前に、天照大御神をお祀り
 するために造営されたお宮です。
 とても静かで自然豊かな所にあり、内宮をコンパクトにしたような佇まいです。美しい森林に囲まれ、清涼な川
 が流れ、内宮を彷彿とさせる清々しいお宮でした。人気も少ないのでゆったりと参拝しながら、木々の香りを嗅
 ぎ、鳥のさえずりに耳を傾け、日常を忘れすっかり癒されてしまいました。地元の方がお宮の落ち葉を丁寧に
 拾っておられ、清浄に整然と保つよう常日頃から大切にお祀りされておられるのが良く分かりました。
 名残惜しくもご朱印を頂いて瀧原宮を後にし、次は『外宮』へ。

 昨年の華の会の伊勢神宮研修旅行でも外宮は参拝致しましたが、今回は、前回廻れなかった外宮の別宮四
 ヶ所すべてを奉拝致しました。
 神職の方によると、内宮の神嘗祭に先立ち外宮でも祭祀が行われたそうですが、終了後に到着したため見ら
 れなくて少し残念でした。それにしても外宮、別宮の『月夜見宮』ともにわりと市街地に在るお宮ですが、神域へ
 一歩入ると街の喧騒はどこへやら、厳かで清らかな雰囲気に、尊いご神気を感じ取れるかのようです。
 外宮は創建以来千五百年余り、来る日も来る日も欠かさず、神々に大御饌(お食事)を奉り続けてきました。
 悠久の時の流れを想い、神々への篤い信仰に感動します。

 夕暮が迫る中、外宮から急ぎ『倭姫宮』へ向かいました。
 皇大御神のご鎮座地を求め長旅をされた倭姫命のご神前で、拍手を打ちながら全員でヒフミ祝詞を奏上し、こ
 の日の参拝を終えました。 いったん宿へ戻り、いよいよ神嘗祭へ備えます。

 神嘗祭は誰でも参列できる祭祀ではないのですが、この度はご縁があり、間近で見る機会を得られ幸運でした。
 夜も更けた九時過ぎ、今夜の神嘗祭に参列する崇敬者が続々と内宮の宇治橋鳥居前に集まりました。暫く整列
 の後、神宮衛士の案内に従って夜の鳥居をくぐり一歩踏み出した瞬間、サッと周りの空気が変わり、ご神域に入
 ったのが分かりました。
 暗闇の中は感覚が研ぎ澄まされるのでしょうか。俗界と神域を隔てる五十鈴川の川音を聞きながら、こんなにも
 気が変わるものかと驚きつつ、ひっそりと夜の闇と静寂に包まれた内宮のご神域を奥へと進みます。
 お手水を済ませて第二鳥居をくぐり、参道の脇へ控えて待つこと数十分。

 松明の炎とともに神職の列が姿を現し、祭主をお努めになる、昭和天皇の第四皇女であらせられる池田厚子様
 が、気品高く緩やかな歩みで参道をお進みなられます。
 周囲は緊張感に包まれ、煌々と燃え盛る炎は深々とした夜の神宮を照らし、神職の真っ白な衣装が闇の中に浮
 かび上がります。辺りは幻想的な空間になりました。
 祭祀は粛々と執り行われ、祭主と神官は内宮ご正殿へ入られ私たちの視界から消えました。
 神々の運行なさる、厳しくもあたたかい大自然の尊い恵みに感謝を奉げ、毎年毎年連綿と続く神嘗祭に参列で
 きた事は本当に有難いことです。時代が変わろうと、人の価値観が変わろうと、不変のものがあるのだと。
 私たち日本人が神と共にあり、代々祖先から受け継いできた営みの重み。言葉では尽くし難いものです。

 翌朝は正装をし、内宮の御垣内参拝がありました。
 神官の祓いの後、皇大御神のご神前へお近づきになりますので、またしても大変緊張致します。
 つつがなく参拝を終え神楽殿へ。厳かな中に美しい御神楽に華やかな心持ちとなり、此の度の伊勢参拝を締め
 くくる『饗膳の儀』へと移ります。昨夜の神嘗祭から清らかなご神域での神事を済ませて、日常へ戻る為にお食事
 を頂くのが饗膳の儀です。お食事をすると、ホッとして今までの緊張も解けます。食器として利用したカワラケ、千
 木箸などをお土産に頂き、私たちの神嘗祭は無事終了致しました。

 この後は斎宮博物館へ。
 わかりやすく臨場感のある展示で、今までよく存じ上げなかった斎王制度や斎宮の生活を詳しく勉強できました。
      
 新幹線の出発を睨みながら、この旅の最後の目的地『熱田神宮』へ急ぎます。
 時折激しく雨が車の窓を叩きつける中、大都会の真っ只中にあるお宮へ到着。現在、熱田神宮では本殿遷座祭
 が行われている最中で、翌日の流鏑馬に備えて練習しているところを見学する事ができました。
 大都会にあって木々に囲まれ清々しく威厳に満ちて、三種の神器『草薙神剣』がお鎮まりになるに、いかにも相応
 しいお宮でした。
 二日目はかなり雨にも降られましたが、参拝の時だけは嘘のようにぴったりと雨が止み不思議な事ばかりでした。
 熱田神宮も例にもれず、雨上がりのお宮の木肌も風情があり、立ちこめる草木の香りも格別でした。
 二日間にわたる参拝を終えて、日本の精神性を学び、心に残るものがたくさんありました。
 先生ならびにご同行の皆様、貴重な体験を有難うございました。今回参拝しましたお宮に、また何時の日かご縁
 がある事を祈って・・・・。
                                                   (池袋中級A教室 T・Aさん記)

 瀧原宮  瀧原宮  瀧原宮
 瀧原宮  瀧原宮  外宮
 外宮  外宮  外宮
 多賀宮  土宮  土宮
 月夜見宮  月夜見宮  倭姫宮
 内宮  内宮  内宮
 五十鈴川  忌火屋殿  荒祭宮
 神楽殿  斎宮歴史博物館  熱田神宮
 熱田神宮